「ナンバ走り」という言葉をご存知ですか?

2003/12/17 中 憲治

今年の8月のパリ世界陸上、200メートルの銅メダリストとなった末續慎吾選手の走り方は「ナンバ走り」を応用したものといわれています。
古くから、短距離走の世界は、スプリント力の相対的に劣る黄色人種には不利と信じられてきました。末續慎吾選手の銅メダルは、まさにそのパラダイムを覆したところに驚きと大きな意義があります。
「ナンバ走り」も実は私たちが持っている「走り方」に関するパラダイムを大きく覆すものです。
私たちは、子供のころから、早く走るためには、「右足を前に踏み出すときは右腕を後ろに強く振る」「腕は大きく振るほど早く走れる」すなわち体を捻る走り方を教えられてきました。しかし、「ナンバ走り」とは体を捻らず、無駄なエネルギーを使わない走り方で、古武術の体の使い方を走り方に応用したものです。
その極意は、「捻らず」「うねらず」「踏ん張らず」の3つの言葉で端的に言い表します。
私たちが教えられてきた走り方を「西洋式走り」と呼ぶとすると「西洋式走り」は実は明治時代に日本に導入されたものといわれています。「ナンバ走り」は日本古来の走り方で、忍者や江戸時代の飛脚が「ナンバ走り」の代表選手です。
忍者の走り方はほとんど腕を振りません。飛脚も肩に担いだ箱を支えるために両手を添えています。腕は振りません。腕を振らないとは体を捻らないことなのです。
マラソンの高橋尚子さんも腕はあまり振りません。体の前で小刻みにリズムを取るだけです。末續さんも高橋尚子さんも、走るという世界にパラダイムチェンジをもたらしたのです。従来のパラダイムを否定し、新たなパラダイムを構築することで新しい世界を開いたではないでしょうか。
私たちビジネスの世界、プロジェクトマネジメントの世界でも、気がつかないうちにパラダイムにとらわれていることはないでしょうか、そこから脱皮することが新たな世界を開くことができる可能性を示唆しているようです。