先月は「相関関係」と「因果関係」の定義についてきちんと区別されていないのではと書きました。今月は「効率的」と「効果的」の区別について書きたいと思います。言葉の定義は、先月よりも分かりやすいですが、時々、同義語して使われているように感じます。
◆「効率」と「効果」の定義
今月も新明解国語辞典(三省堂)にお世話になります。「効率」の意味を、辞典で引いてみました。「その事をするのに消費した労力や時間からみた、成果の程度」と書かれています。効率的を私風に表現すると「楽になる様子」ではないかと考えます。「効果」の意味を、辞典で引いてみると「目的通りの良い結果」と書かれています。「効果的」を私風に表現すると「成果がでる様子」ではないかと考えます。
「効率」と「効果」を分けて表現すれば、違いははっきりしていますし、言葉の意味を同じものだと考える人はほとんどいないはずです。しかし現実の世界では、「効率的」であることが、そのまま「効果的」であると表現されるケースを良く見かけます。「効率的」=「効果的」であることもありますが、必ずしもそうでないケースをいくつか挙げてみたいと思います。
私は、10年以上教育ピジネスに関わっていますが、確か5年前ぐらいには、今後の研修はイーラーニングが主流になる。と議論されていた時期がありました。「時間の制約もなくコストも安く済む」など効率的な多くの利点をあげ、教育業界全体がイーラーニングのシステムに多額の投資をしてかなり活発にそのコンテンツを立ち上げました。しかし現状は少なくとも研修に関しては、イーラーニングは当初の予想と比べた場合はかなり低調な状況です。ほとんどは投資を回収できていません。その大きな原因は、単なる知識の吸収だけであれば、集合研修もイーラーニングも大きな違いはありません。しかし、人と人がコミュニケーションすることによる気づきや創造性は、イーラーニングでは生み出せません。また、学んだことを記憶として定着する強さの度合いは、イーラーニングのように目で見て覚えるだけの視覚的記憶と比べると、集合教育のように、見て聞いて話して動くなど、体験的記憶とでは、体験的記憶の方が、はるかに記憶として強く定着します。研修の目的が「社員の能力の開発」だと考えた場合の効果は、イーラーニングと集合研修とでは大きな差があります。
もうひとつ、私が関わったことでは、これも一時はやったSFA(セールスフォースオートメーション)のシステムがあります。SFAを簡単に説明すると営業の活動を効率するために、営業活動の結果や報告業務などをシステム化してモバイル端末などにインプットし、マネジャーはそれを見て指示を与えます。それにより会議や日報などに掛ける時間が少なくなり、営業活動に多くの時間がさけるようになるというものでした。確かに日報などに掛ける時間は減りましたが、システム化することにより、部下とマネジャーのコミュニケーションが減ってしまいました。その結果、話し合うことで行える指導や部下の悩みを聞くなど大切なことがおろそかになり、チームとしての一体感がなくってしまいました。結局は成果が落ちてしまう例をいくつも見ています。私の友人のIT系のベンチャーの社長は、出来る限りメールなどは使わないで、部下とは直接会話をすることを心がけていると言っていました。伸びている会社です。
もう少し身近な例は、少し前に自宅のそばに「タイ焼き屋さん」が出来ました。あんこいりのタイ焼きだけでなく、ピザやカスタードなど多くの種類を作っており、多くの顧客のニーズにこたえられるようにしています。一度にいくつも焼ける道具で効率的に作っています。四谷に古くからの「タイ焼き屋さん」が一軒あります。あんこ入りのタイ焼きだけしか売っていません。一匹を一つずつの古い道具を使って焼いています。どちらが込んでいるかといったらあきらかに四谷のタイ焼き屋さんはいつでも大繁盛です。仮に四谷のタイ焼き屋さんを効率経営で、いろいろな種類のタイ焼きをいっぺんに焼けるような道具に変えた場合、今と同じように繁盛するとは思えません。
企業などが多額のお金をかけて、効率化を進めていますが、何のために効率化をするかを考えれば、効果を出して成果を上げるためです。しかし多くは効果の定義にある「目的通りの良い結果」の目的が何かをはっきりさせることも、効率化することによって、本当に目的が達成されるかを検討されることもないまま、効率化すれば成果が上がるという思い込みで、施策が実行されます。
効率の結果を確認する指標が、スピードや生産量などのようにすぐに数値でデータが取れるものに対して、効率は、売り上げのように結果の確認に時間がかかるもの、モチベーションなどのように数値化することが難しいものが多くあります。そのため本来は、効果を挙げるために効率化を図っていくはずが、得てして効率化すること自体が目的となってしまいます。この状態を対象の自己目的化と表現します。厳しい環境ですから、多額の投資をして効率化する前に、目的と目標を明確にするとともに、本当に効率化することにより真の目的が達成できるか冷静に判断する時期に来ていると考えます。