修羅場を持ちこたえる条件:セレンディピティ

2012/04/18 中嶋 秀隆

思わぬ困難や逆境に直面した人がその修羅場を乗り切る力を英語では「レジリエンス」といい、この欄では「心の復元力」として取り上げてきた。

5月1日に「レジリエンス」に関する本を発刊していただくことなり、つい先日、最終原稿をお出したばかりだ。そこではは、「レジリエンスス」に「再起する力」とか「再起力」という言葉をあててているので、このの欄でも、これかからは、おもに「再起力」ということにしよう。

再起力は、1)健康、2)問題解決、3)自信・自尊心・自己イメージ、4)開かれた心と学習、5)セレンディピティの5本の柱かからなる。1..4)については取取り上げてきたので、今回は5)セレンディピティに焦点を当てよう。

修羅場といっていいような厳しい状況や、理不尽な出来事に遭遇したとき、そこに次の発展の芽を見つけることができれば、「災い転じて福となす」ことができる。

「セレンディピティ」という語は科学研究の分野で、近年、広く知られるようになった。スリランカのおとぎ話に由来する言葉だが、「幸福な偶然をつかまえる能力」にあたる。
セレンディップという王国の王が、自国を悩ませるドラゴンの退治に必要な、伝説の巻物を持ち帰らせようと、3人の王子を差し向けた。3人の王子は、ペルシャからインドへと旅をする途上、いろいろな難局にたて続けに遭遇するが、そのたびに知恵や勇気を出して、首尾よく乗り越えた。3人の王子が伝説の巻物を持ち帰ることはかなわなかったが、かれらが貧しい人々や苦しむ人々への慈悲の心を身に着けたことを、王は喜ぶ。かれらは、せようと、3人の王子を差し向けた。3人の王子はそれぞれ、セレンディップとペルシャ、インドに領地と伴侶を得て、幸せに暮らした。
自然科学の世界では、実験の手順を間違えたことが新発見につながったとか、試薬を放置して忘れていたら、その間に、予想だにしない反応をしていた、などのセレンディピティの事例が多くみられる。
日常でも予期せぬ出来事が降りかかったとき、それをしなやかに受けとめ、そこに予期していなかった意味や恩寵を見つけることができれば、その後の大きな発展に結びつけられる。修羅場や逆境に潜むメリットに気づき、災いを福となすことだ。
セレンディピティの力を養うには、他人の体験談から学ぶのが効果的である。「愚者は経験から学び、賢者は歴史から学ぶ」(ビスマルク)というが、人は、自分が生きている限られた時間にすべてのことを自ら経験することはできない。そして、とてつもない困難を乗り切り、災いを福に転じた人々の体験談は、教訓の宝庫である。重病や大事故、天災、ビジネスの苦境などから立ち直り「人生で最悪の出来事が人生で最高の体験」になった人の伝記や自伝、回顧録などには、どのようにして逆境を乗り切り、より大きな自分になったのかが語られている。

災いを福となすためのセレンディピティのステップは次の8つに集約される。
① 逆境を楽観主義で受けとめる(必ず乗り越えられるという確信)
② 心の中でポジティブな言葉を自分にいい聞かせる(セルフトーク)
③ 笑う、机をける、泣く(など、リラックスし、心のバランスを取り戻す)
④ 軌道修正する。→現実はどうなっているのか(好奇心)、効果的な打ち手は(問題解決)
⑤ 現実を受け入れる(現実を否定してエネルギーを浪費しない)→物事は起こるべくして起こったという姿勢
⑥ 好奇心と遊び心で臨む→困難の中に「おかしみ」を見つける
⑦ セレンディピティの問いを立てる
これはなぜよい出来事なのか?
この出来事のどこにすごいチャンスがあるのか?
どうすれば「災い転じて福となす」ことができるのか?
⑧ 行動する→やり方を変える。手を変え品を変え、粘り強く続ける

逆境に直面したら、セレンディピティの才能を発揮して、幸福な偶然をつかまえ、さらなる飛躍に結びつけよう。

(次回に続きます)