職業としてのプロジェクト(その6)

2009/01/15 中嶋 秀隆

三上:いい考えがひらめく瞬間
仕事には課題がつきものだ。プロジェクトでいえば、目標の定義から、計画策定、実行・コントロール、そして終結にいたるまで、常に課題がつきまとう。プロジェクト・チームは、目標の明確化に始まり、承認の取りつけ、計画の整合性の合意、予実差異への対応、教訓の吸い上げと申し送りまで、ひっきりなしに現れるその時々の課題に取り組んでいる。そして、ひとつひとつの課題に対する解決策は、フォーマルな会議の場で得られることもあるが、(自分がそのことを必ずしも突き詰めて考えていない)インフォーマルな場面で心にひらめくことも少なくない。 この、「いい考えがひらめく瞬間」について、中国・欧陽脩の故事では、馬上・枕上・厠上の「三上」(さんじょう)をあげている。すなわち、物事に思いを巡らせ文章を練りあげるには、移動中の馬の上、枕に頭を乗せた寝床の中、トイレで用を足している時の3つが適しているというわけだ。

「どんな時にいい考えがひらめくか」を周りの人に訊いてみると、さまざまの答えが得られた。具体的には、歩いている時、走っている時、車を運転中、入浴中、シャワーを浴びている時、人の話を聞いている時、人と話をしている時、新幹線で東京と大阪を移動している時、寝入りばな、などだ。資生堂の福原義春氏はエッセイの中で、朝食のゆで卵をつくっている時を挙げている。それぞれ、その人なりの「三上」といってよい。ちなみに、私は朝寝床でうとうとしている時である。

θ波が出る時
こういう時は、一般に、脳がリラックスし、α波かθ波を発していると考えられている。私たちの脳波には下表のように4種類の波形があり、周波数の低い順に、δ波、θ波、α波、β波に分けられる(諸説あり)。このうち、心身がリラックスし、集中・瞑想状態にあるときに現れるα波は、クリエイティブな仕事につながるとして注目されている。しかし、私が注目したいのは、さらに深い催眠状態であるθ波だ。θ波こそが、私たちの潜在意識に直接働きかけ、感受性をより豊かにし、イメージやインスピレーションをもたらし、忘れていた記憶を呼び起こしてくれるからだ。

いい考えがひらめくためには、自分の頭脳に課題をインプットしたら、そのことに集中して「脳みそが汗をかく」くらい集中して考えることが不可欠だ。それでも突破できない時には、それ以上突き詰めて考えず、あえて顕在意識からいったん忘れ去って潜在意識に任せる。そして、自分独自の「三上」に身を置くことが効果的である。これを図式化すると、課題を脳にインプットし、忘れる⇒顕在意識が忘れ(デリートし)ても、潜在意識は忘れずに処理を続け、考えを熟成させる⇒それが、θ波の出る浅い昏睡状態で、潜在意識から顕在意識へひょいと現れる(アウトプットされる)、というわけだ。

”『プロジェクトマネジメント学会誌』より転載”