{余談} 理沙ちゃんの童話

2010/11/15 浅見 淳一

先月のエッセィで、「1/4の奇跡~本当のことだから~」をご紹介させていただきました。前にビジネススクールに通っていた時に、福島正伸先生から似た話を伺いました。今月はその話をご紹介させていただきます。少し早いですが、クリスマスのキャンドルのように、皆様の心に、明りがともるプレゼントになれば幸いです。

◎「理沙ちゃんの童話」

あるところに、理沙ちゃんという女の子がいました。生まれたときから体に重い障害を持った女の子でした。自分の力では起き上がることも出来ず、ずっと病院のベッドに寝たままで大きくなりました。体には何本ものパイプがいつも繋がれています。体は不自由でしたが、とても心の優しい子でいつも周りの人の事を気にかけています。一人の時は体が痛いと泣くことは有っても、人がいる時は明るく振舞っていました。

そんな理沙ちゃんが、自分の体のことより、何よりも悲しいことは、病院にお見舞いに来てくれるお母さんが、理沙ちゃんを見るたびに、いつも涙を流して悲しむ姿でした。

これからお話しする童話は、そんな理沙ちゃんが、少しでもお母さんに元気になってもらいたくて、考えたお話です。

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理沙ちゃんが生まれてくる前の出来事についての童話です。
「人は、誰でも生まれる前に、神様のところで、生まれた後に自分のなりたいものになることが出来る、運命の入った箱をプレゼントしてもらえるの。」
「ある人はお金持ちの家に生まれたいとお願して、ある人は美人に生まれたいとお願いして、それがかなう運命が入った箱を、神様にプレゼントしてもらって生まれてくるの」
理沙ちゃんの順番が来たときに、理沙ちゃんは神様の後ろに隠すように一つの箱があることに気づきました。理沙ちゃんは、その箱を見て神様に「その箱の中には、どんな運命が、入っているのですか?」と聞きました。
すると神様は、「この箱の中は、一番強い子、やさしい子にあげる運命が入っているのだよ。とてもつらくて大変な運命が入っている箱だから」と言いました。
理沙ちゃんは、それを聞いて「私は、とても強い子ですから、その箱を私にプレゼントしてください。私がもらいます」「もし、私がその箱を貰わなければ、誰かがもらわなければならないのでしょう。」「私はほかの子が苦しむ姿を見たくはありません。私は誰よりも強い子です。私がその箱をもらいます。その箱を私にください」と神様にお願いしました。
そして、理沙ちゃんは、重い障害を持って生まれてきました。

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理沙ちゃんはお母さんにこの童話を話して、「私は、誰よりも強い子だから、障害を持って生まれてきたの。だから、悲しまないでね。」と、お母さんにお願いしました。
ここまでが、理沙ちゃんが、お母さんのために一生懸命に考えた童話です。
その童話を聞いた理沙ちゃんのお母さんは、「理沙ちゃんは、誰よりも強くてやさしい子だから、ほかの子が障害を持たないで生まれてくるように、障害を持って生まれてきた」と少しだけ思えるようになりました。そして、理沙ちゃんのことを人にも話せるようになりました。それからは、いつもは理沙ちゃんの顔を見るたびに、涙を流してばかりいたお母さんが、たまに笑顔を見せてくれるようになりました。理沙ちゃんは、そのお母さんの笑顔を見るたびに、嬉しくなって、自分も微笑んでしまうのです。
以上が、理沙ちゃんとお母さんのお話です。

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私の友人にも障害を持ったお子さんをお持ちの親御さんがいます。自分のこととして考えてみると「自分のせい」と自分自身を責めていないか気になります。時として、怪しげな宗教や占いが、「過去の業のせい」と勧誘にくるようです。個人的にはその考え方は間違っていると思っています。
遺伝学的には、人類の生存のために誰かが障害を持って生まれてこなくてはならないそうです。私には、本当の親御さんの悩みは、ほとんど分かっていないでしょうが、このような話が少しでも伝わり、世の中の理解が進み、わずかでも親御さんの気持ちが軽くなる事を願っています。