人芯経営論 ・・・習慣の依存性

2011/05/16 浅見 淳一

3月のエッセイに「断つ力(断力)」について書きましたが、最近「断捨離」という言葉が流行っていることを知りました。聞いたことありますか?クラターコンサルタントのやましたひでこさんが提唱している「整理・整頓の生活術」です。
・いらないものは持たない
・いらないものは捨てる
・いらないものに執着しない

長い人類の歴史の中で、人は常に、物質的に豊かになることを求めてきました。21世紀になって、人はいらないものは持たなくてもいいと考えられるようになりました。プラスの欲求の価値観から、人類は初めてマイナスの欲求の価値観に切り替わりました。過去の人々が豊かさを追求してくれたおかげです。
「断捨離」から、私はこんなことを感じました。
・必要のない習慣は持たない
・必要のない習慣は捨てる
・必要のない習慣にこだわらない

しかし、人が日常で何気なく行っている習慣をやめることは意外なほど困難を伴います。人は「習慣の動物」といわれています。習慣化してしまうと日常の行動と判断はその習慣に依存するため、止めることが難しくなります。起きる時間や寝る時間、活動スケジュールなど、人の日々の生活は習慣化したものに多くを依存しています。
人が苦手なことが3つあると言われています。
① 何かを考える
② 何も考えない
③ 何もしない
①と②は相反する表現で、分かりづらいですが、説明を読んでいただければご理解いただけると思います。

◆何かを考える
行動しようとすることの必要性や必然性をいちいち検討することは時間と手間を使います。毎回検討することは、かなりの労力が必要です。今まで問題なかったことを継続することは、思考しないでも済むために、とても効率的でなおかつ楽です。脳は全体重の2%ぐらいなのに、酸素とエネルギーの消費量は全体の20%もあるらしいです。脳は常にフル回転していますから、出来れば脳は面倒なことを考えるのを避けようとします。
ヘンリー・フォードは、「思考することは、この世で一番困難なことである。それゆえ、ほとんどの人は思考しないのだ」と言っています。その証拠に、私は学生時代、宿題は何時もギリギリになってからでないと取りかかりませんでした。今でも原稿の執筆が遅れしまい編集者にご迷惑おかけしています (申し訳ございません) 。主婦が「毎日の晩御飯のメニューを考えるのが面倒くさい」という発言もその表れではないでしょうか。
◆何も考えない
人の最も困難なもののもう一つは「何も考えない」ということです。試しに何も考えないように「座禅」か「瞑想」をしてみてください。私みたいに煩悩の多い人間は、頭の中で色々と雑念が浮かび、とても「無」の状態にはなれません。人は常に自分と周りの関係を意味付けします。例えば雨の日は「あいにくの天気」だとか、晴れた日は「気持ちの良い日」だとか考えます。考えているといっても、論理的に考えたり生産的に考えたりしているわけではありません。人は頭を休ませたくても色々な考えが次々と浮かんできてしまいます。そしてその考えに気持ちが振り回され疲れてしまいます。
◆何もしない
人は何もしないでボーとしていることは、そう何時間も出来ません。前に強制的なリストラのために、なにも仕事を与えずにただ机に座らせている会社の話がニュースに取り上げられていました。ひどい話です。何もしないことは苦痛以外の何物でもありません。
スティーブン・R・コヴィー博士の「7つの習慣」では、習慣は「知識(なにをするか、なぜするか)」「スキル(どうやってするか)」「やる気(実行したい気持ち)」の3つの要素からなっていると書いてあります。良い習慣はそうかもしれませんが、多くの習慣は、「何かを考える」「何も考えない」「何もしない」ことを避けるために習慣化されます。たとえば「テレビを見続けている人」「ゲームをし続けている人」「メールをし続けている人」一見、思考しているように見えますが、大部分は刺激に反応しているだけです。なにかを考えている訳ではありません。
習慣にそって考え行動することで人は安心感を得ます。習慣をやめる困難さは、習慣が本人にとっては日常であり安心だからです。普通は習慣に依存しているという意識を持ちません。たとえばアルコール依存症の人は周りの人は、明らかにアルコール中毒と思っていても、ほとんどの場合は本人にはその自覚はないそうです。本人にはその状態が日常的な普通の状態だから認識がないと考えています。食べ物の依存、インターネットの依存、テレビの依存なども同様です。習慣への依存性は強く、習慣をやめることは強い意志の力が必要です。習慣を断ち切ったからもう大丈夫だと安心して、軽い気持ちでつい手を出してしまうと、また習慣化してしまいます。アルコールや麻薬はその極端な例です。
個人のレベルだけでなく、会社の仕事を考えてみると、必要もない作業が習慣化されているために継続されている仕事が結構あります。生産計画があるから売れなくても作り続けて在庫の山になる。効果のない販促策を続けて経費を無駄に使っている。必要もないデータを収集するために現場の仕事を増やしている。はほんの一例です。

現在のように変化が急速な時代では、定常業務などのルーチンワーク、習慣化している仕事は、常に見直して、無駄なものはどんどん切っていかなければ、社会のスピードについていけません。現代は、公私ともに習慣化しているものを見直して、不要なものを止める、意志と勇気が必要とされています。
来月は、良い習慣化の作り方について書こうと思います。