レジリエンスの基本原則

2020/10/15 中嶋 秀隆

 この世には不公平な面もあれば、日々の暮らしには理不尽なことやとんでもないことも起こる。記憶に新しいところでは、2011年3月に東北を襲った大震災とそれに続く原子力発電所の大事故、そして2016年4月の熊本大地震、昨年に中国・武漢に端を発する新型コロナウイルス(COVID-19)など、被害を受けた人々には、予測のしようもなく、防ぎようもなかったことかもしれない。何の落ち度もない人が、理不尽に命を落としたこともある。
 就職して長年働いてきた人が、会社の都合でいきなり仕事を失い、ショックと失意の中で、再就職の活動をするというケースもある。
 また、就活中の学生が多数の企業にエントリー(登録)したにもかかわらず、景気の影響で内定を受けられないというケースもあれば、内定をもらって入社した会社が労働法規に触れるような過酷な働き方を強いる、いわゆる「ブラック企業」だったという例もある。
 私はプロジェクト分野のコンサルタントとして、いろいろな業界のさまざまなプロジェクトについて、実施方法を研修・アドバイスしたり、相談に乗ったりしているが、プロジェクトに参加する人は誰もが厳しい納期と予算、品質基準を引き受けた上で、結果を出すことを求められる。どれをとっても、プレッシャーがきつく、一筋縄ではいかないものばかりだ。
 興味深いことに、そんな中でも、厳しい状況や修羅場を乗り切り、そこから大きく成長する人がいる。一方、そこで立ち往生し、二進(にっち)も三進(さっち)もいかなくなる人がいる。この違いはどこから生まれるのか? 厳しい状況から道を切り開くことができる人にはどんな特資が備わっているのか? その特質は学んで身につけられるものなのか? ここかの章では、その具体的な特質を明らかにし、それが学んで身につけられるものであることを示そう。そして、あなたが修羅場を乗り越え、そこから大きく成長するのを手助けすることを目指している。
 まず最初に、確認しておきたい基本原則がある。それは、「いま起こっていることはあなたの責任ではない(かもしれない)。だが、それにどう対応するかはあなたの責任だ」ということである。あなたの人生はあなたの責任に他ならないからだ。
 たとえば、大問題を抱えるプロジェクトがあるとしよう。いきなりそのプロジェクトの責任者に指名され、何とかしてほしい、といわれることがある。その会社で働く以上、「ノー」とはいえない。現場に入ってみると、品質の要求レベルはとてつもなく高い、期限は非現実的なほど短い、予算が少なすぎる、クライアントは怒鳴りまくるだけで、前向きな話は一切できない……など、とんでもない状態だ。ここで思い当たることがある読者は、過酷なビジネスの世界に身を置き、逆境・苦境・困難・修羅場といった、厳しい状況を経験したことがあるに違いない。そして、仮に、あなたがそんな状況をつくり出したわけではなかったとしても、それにどう対処するかはあなたの責任である。あなたのキャリアと人生はあなたの責任だからだ。そして、レジリエンスを高めるには普段から準備しておくことが大切である。