キャッシュマシーン

2006/03/02 香月 秀文

今回ゴール・シリーズの第 5 弾として、キャッシュマシーンという題名の本が発売され、反響を呼んでいます。営業を科学的に検証する作業は遅れており、なかなかこれだという理論がみつからないようです。特に大きな要素が人間関係構築力と思われていますので、標準化がむずかしく、属人的要素に頼っています。営業部門においては先輩の行動をみて体で覚えるということを前提にしていることと、人によるバラツキが大きいという制約が考えられます。営業の仕事は製造部門などの仕事と比べて、一匹狼的な捉え方をされており、スポーツで言えば格闘技型でしょうか。ひとり一人を強化することには熱心なのですが、チームの業績となるとメンバーの意識は優先順位が下がります。チームリーダーのみが、チームの業績に責任を持つという体質にあります。このような状態で営業目標の達成を目指すと、バラツキが大きく締め切り近くにならないとチーム全体の業績がわからず、売上げの予測が非常に困難になります。実際に営業部門を担当したときに売上げ予測が正確に読めずに苦労したことがあります。締め日まで残り5日ぐらいになってやっと最後の状況が予測できるというような状態でした。そのときは月度の売上げ達成に対して秒読み状態になっており、最後の一発勝負という形となり、労力も疲労もピークとなります。なんとかギリギリで売上げを達成し、その後10日ぐらいは、急激に集中力がダウンして、営業部門は一時方心状態となります。そして10日をすぎたごろからまた動き出し最後の5日間のピークを迎えます。スリルはありますが、あまり精神衛生上と生産性としては好ましくありません。これをキャッシュマシーンでは期末症候群と呼んでいます。営業においては毎月これを繰り返し、毎年繰り返しながら、気がつくと5年、10年と進んでいきます。PDCAの上方スパイラルではなく、平面をぐるぐる回ることになります。最悪の場合には下方スパイラルとなり少しずつ業績が悪化していきます。
この本で主張していますのは、
1.営業の仕事においてWeakest Linkを明確にすること、そしてその解消に集中する。 その継続的改善作業を実施していく。今度は新しいWeakest Linkが発生しまた解消していく。となります。制約条件が社内にある場合と営業の場合は市場にある場合もありますので、その場合またその対策が必要となります。市場に制約がある場合にはかなり上位の判断が必要となります。
2.パラダイムシフトによる営業の仕事のバラツキの改善。個人実績評価システムとチーム業績評価システムと組織全体評価システムの設定とそのバランス
3.HPとABPの適用とバッファーマネジメントによる売上げ目標設定のストレッチとバラツキ・コントロールによる売上げ未達の解消
4.対立図による真の問題の明確化とその解消方法を探す。営業においてはすぐ結論に飛ぶ傾向にありますので その前に論理的裏づけを行うことによる、同じような問題の再発生を防ぐ。
5.じょうご理論による、見込み客からクロージングまでのステップと歩どまりの可視化。(これはTOCというよりは一般の営業開発の手法として使われています。)
TOCの考え方を営業活動に適用し、営業の売り上げて達成において「やってみなければわからない」を「やる以上は無理をしないで必ず達成する」に価値観を変える試みを提案してしています。
今回の著者は初めてゴールドラット博士ではなく ISEADで学んだ人が書いていますので営業の方、マーケティングの方、、経営トップの方、経営企画の方にもTOCが身近に感じられることと思います。ちなみにINSEADはブランドビジネスの開発においても非常にすぐれたフランスの国際経営大学院です。