知識体系と「守破離」

2016/10/09 中嶋 秀隆

 わが国の武道や芸術の世界に「守破離」(しゅはり)という言葉がある。師弟関係のあり方にもとづき、スキル習得を 3 つのステップでとらえている。
 最初は、初学者が師の指導を忠実に学ぶ「守」のステップだ。第 2 が、その型を乗り越え、自分に合った型を模索するために、既存の型を打ち壊す「破」。そして最終ステップの「離」では、師の指導と自分の型とに依拠しつつ、自由に型を離れて自分なりのやり方に行き着くという。

 これをプロジェクトマネジメントのスキルの体得にあてはめると、次のように整理できる。
「守」では、プロジェクトマネジメントに取り組んでまだ日の浅い人が、PMBOKやP2M、ICBなどの知識体系をそのまま理解することに努める。ここでは、関連書を読んだり、研修に参加したりするのが有効だ。身近な先輩やメンターに教えを請うのもよい。
「破」では当人の創造力の出番だ。すでに学習した知識体系を、自分のプロジェクトや業界に当てはめてみる。そして、知識体系を念頭に置きつつ、具体的課題に合うやり方を見つけるために、いろいろな工夫をする。プロジェクトマネジメントが行われる状況は千差万別であり、どれをとっても具体的である。ここでの工夫が、やがて大きな違いとなって現れる。筆者の経験でも、これができる人と組織は大きく成長する。
「離」まで進むと、知識体系と自分のプロジェクトや業界の状況を踏まえた最適解に至る。そして、やがて持ち味を生かした、自分なりのやり方が出来上がる。ここまで来ると、自分なりの肉付けや脚色と楽しむこともできる。そして、この最適解は変わり続けるということに注意したい。プロジェクトは生き物にほかならないからだ。

わが国の武道や芸術の「守破離」は、プロジェクトマネジメントでも力を発揮するに違いない。