シンプル・マーケット論・・・・(1)新規事業の立ち上げ

2008/12/17 浅見 淳一

過去私は、複写機の製造・販売をしている会社に勤め、大手製造企業の営業を担当した後、教育・コンサルを行っている子会社に約8年出向していました。その間、新規事業の企画や、営業部門に対してマーケッティング研修や戦略立案研修などの企画や講師も行いました。グローバルスタンダードと言われている多くの手法、MBAの考え方、ポーターの理論などを使っていましたが、正直、こんな分析をしないと経営は出来ないのか、とずっと疑問に思っていました。ベンチャー企業から大企業に育て上げた、日本を代表する経営者の松下幸之助さん、本田宗一郎さんは当然MBAの資格などは持っていません。経済活動は、人と人が行う活動です。現場にいた感覚として、実際の経営にとって大切なことは、もっとシンプルなことだと漠然と感じていました。長年感じていたことを、プロジェクトマネジメントのプロセスをベースに、自身の頭の中を整理するためにも、「独断と偏見」を恐れずに書いてみようと思います。

(1)新規事業の立ち上げ
プロジェクトの形態をクライアントで考えた場合、大きくは・社内(イン・ハウス)と・社外(受注)があります。さらに目的で分類すると、「ビジネス・チャンス型」と「問題・課題解決型」に大きく分かれます。
今回は、新規事業についてですから「ビジネス・チャンス型」について少し考えてみようと思います。私自身も、新規事業を計画するにあたり、市場分析、ポジショニング分析、損益分析(SWOT、5FOUS、4Cなど)を使い、企画を通すため、いかにリスクが少なく、リターンが大きいビジネスかを提案してきました。しかし、新規ビジネスなのだから当然リスクがあり、やってみないと分からないという観点に立てばやや矛盾した考え方です。正直に告白をすれば、その当時は、仮説を積み上げてフィクション小説を書いている気分で企画書を作成していました。
決して、市場分析やリスク分析をする必要がないと主張している訳ではありません。新規事業においては、現状のビジネスより、さらに予測が難しいことを念頭においておく必要があります。その上で、やるか?やらないか?の判断が必要です。
「ビジネス・チャンス」という表現ですが、最近は、英語や横文字の表現を多く見かけます。自分自身を含め、本当に概念として、意味を理解しているのか不安に感じることがあります。「ビジネス・チャンス」を分かりやすく日本語表現にすると、要するに、「儲かりそう」だからやる、ということだと理解しています。
将来のマーケットを予想して、「儲かりそう」だから参入しようよ、ということですが、マーケットを分析して予想できる範囲は、せいぜいトレンド予想のレベルです。実際、マーケットは、常に大きく変化しており、その時点の分析した予測環境とまったく違うことも決して少なくはありません。新しい技術、異業種からの参入、景気の変動、制度の変更、想定外のトラブル、為替や原油などの変動など、予想外の出来事が常に起きます。実際、原油価格にしても、ほんの5ヶ月前の、2008年7月11日は、1バレル(159リットル)あたり、最高値147ドルに達し、場合によっては、150ドルを突破し200ドルまで行くかもしれないなどと予想もされていました。しかし、12月12日の価格は、約44ドルです。現在の価格は誰か予測できたのでしょうか?これからの価格は予測できるのでしょうか?
「儲かりそう」という基準を、ビジネスを継続する判断基準にした場合は、ほとんどが撤退という選択肢以外は無くなります。結果として投資したお金、投入した人が無駄になってしまいます。少し前に、NHKで「プロジェクトX」という番組がやっていました。時間の関係もあり、プロジェクトらしい進め方の話はあまりなかったように記憶していますが、多くの物語は、幾多の苦難やトラブルを乗り越えて目標を達成したという感動の内容でした。
「あきらめない限り成功しかない」といいます。プロジェクトを始めるにあたり、「うまくいかなくても続ける理由が必要」です。「儲かりそう(ビジネス・チャンス)」というだけでは新規事業を始める理由にはなりません。プロジェクト進めていくには、辛い時でも人と会社が頑張れる、「自分たちでなければ出来ない」という使命感や誇り、あきらめない理由が必要です。それが新規事業を成功させるための一番の要因だと確信しています。新規事業を始めるのに、一番大切なことは
「志のない、新規事業は行わない」ことです。