金の卵を産むガチョウを殺すな

2006/09/19 津曲 公二

プロジェクトの現場でよくある問題として、「ひとつのプロジェクトがまだ終わっていないのに、次のプロジェクトを開始する」がある。従って、同時に複数のプロジェクトを掛け持ちで担当することになる。掛け持ちで、しかも納期の要求も切迫していれば、ミスや手戻りも多くなり、本来は利益を確保できるはずで受注したプロジェクトも赤字になる。よく聞くお話である。

筆者は生産工場の技術員の体験があるが、生産プロセスでは、その能力を把握することは死活的な重要事項だった。生産負荷の増加に対していかにプロセスの能力を対応させるかが、重要な仕事だった。つまり、プロセスの能力と負荷の関係はつねに把握されていた。日本の生産現場ではこれは当たり前のことだったと思う。これに比較してみると、プロジェクトの現場における負荷と能力の関係はほとんど把握されていない。負荷が増えれば、生産プロセスに垂れ流しであることが多い。著名なPMソフトウエアには、要員負荷のヒストグラムは必ずついているが現場ではなかなか利用されていない。能力に対して負荷が限度を超えて増えれば、品質や納期遅延など、必ずどこかにそのツケがまわってくる。

日経ビジネス誌(06-9-11)に、「リコール急増で新車投入計画にブレーキ トヨタ、開発期間を延長へ」が掲載されていた(ウオールストリートジャーナル誌からの転載)。それによれば、最近の品質問題への対応として、通常2~3年のリードタイムを要する新車開発計画を3~6ヶ月余計にかけることを検討中という。これはあくまで非公式の情報のようだが、事実とすれば、現場の実態を踏まえたきわめて当然の結論といえる。競合企業のすべてが開発期間の短縮を目指しているなかであえて逆行する方針を出すところにトヨタのトップマネジメントの的確さを感じる。

TOCによるプロジェクトマネジメント(クリティカルチェーン)では「悪しき掛け持ち」という言葉がある。すべての掛け持ち作業を否定しているわけではなく、効率低下が無視できないくらい大きい場合を「悪しき掛け持ち」としている。クリティカルチェーンは、複数プロジェクトの効果的な運営に現実的な解答を提供する。つまり、現有のリソースで最大の能力を生み出すためには、複数プロジェクトの環境下で、どのようなリソースマネジメントをおこなっていくかという課題を解決する。プロジェクトは人で成り立っている。イソップの寓話はいまも生きている。