東京の初雪

2011/12/14 中 憲治

今月9日、夕方のテレビニュースは関東地方の各地で初雪と報道した。水戸で、前橋で、朝8時ごろの雪の降る情景を放映した。同じ放送で八王子での雪の情景や、新宿の朝8時ごろに雪のちらついている情景も同時に放映した。しかし、番組の解説者は「これは東京の初雪ではありません。東京は気象庁のある大手町で雪を観測しないと『東京の初雪』とは呼ばないのです」とコメントした。ちらちらと舞う水戸や前橋の初雪より、八王子の雪の降り方ははるかに激しいものだったが、八王子の初雪とも東京の初雪とも認定されないそれは何故なのか?東京の範囲はどのように定義されているのか疑問に思った私は、妻に疑問をぶつけてみると、「別に大手町で降っていいないから呼ばないだけじゃないの!」と簡単に疑問をウッチャラレタ。私にとっては大した問題ではないということのようだ。

詳しく調べたわけではないが、気象庁の発表は、各地方の県庁所在地にある気象庁/気象台が観測したことしか正式な事実として公表しないと考えられる。

私の住んでいる茨城県では、県庁所在地である水戸で初雪が降れば、水戸気象台では「水戸市で今年の初雪を観測した」と報じる。しかし、その他の日立市で初雪が降っても「日立市で初雪を観測」とは言わない。東京都の場合は、気象庁のある大手町で観測されないと、八王子市でいくら初雪が降ろうと『東京の初雪』とは呼ばない。そのような前提が毅然としてあり、その前提に基づいて幾つかの事象が語られていく。

そこで思い出したことがある。携帯電話の普及が本格的になった頃、各通信キャリア会社はサービス提供エリアの拡大に競い合い、「サービスエリアマップ」を公表していた。しかし、サービスエリアマップではサービス提供エリア(通信可能エリア)と表示されていても実際にはつながらないエリアも多数存在していた。通信キャリア会社にクレームが多く寄せられるうちに次第に事実が判明する。サービスエリアマップの通信可能地域は次のように定義されていた「各自治体単位で、自治体の市庁、町庁のある地点で通信可能であれば、その自治体全体は通信可能エリアとして表示できる。」(これは通信行政を統括する郵政省(現在では総務省)の指導に従っていると各通信キャリア会社は説明(弁明?)していた。

何らかの情報が発信される時、そこには、隠された前提や定義が存在するがそれが明らかにされないままに議論されることは、日常社会では多く存在する。ビジネス上においても同様であるが、ビジネスでのこのような事態は、いくら議論を重ねても結論が得られない、無駄な時間ばかりを費やすなど非合理な結果を招く。

プロジェクトでは多くのステーク・ホルダーが協働して目標達成をめざすがそのプロセスで、意志決定や問題解決の事案に議論を重ねて多くの時間を費やす、我々の議論の過程で各自の思考スキーマーにより事案を殊更複雑にしていることが多いのではないか。つぎからそのような思考スキーマーの問題を考察してみたい。