修羅場を持ちこたえる条件:その4:開かれた心と学習(A)

2011/01/18 中嶋 秀隆

思わぬ困難や逆境に直面した人がその修羅場を乗り切る力を「心の復元力」といい、それは、1)健康、2)問題解決、3)自信・自尊心・自己イメージ、4)開かれた心と学習、5)セレンディピティの5つからなる。今回からは、4)開かれた心と学習を取り上げよう。開かれた心と学習には、①好奇心、楽観主義、柔軟性という3つの特質、②成功への取り組み、③〔人生という学び舎〕で学ぶ、④共感とシナジーの4つの要素があるが、今回は、①の中でも好奇心と楽観主義に集中する。

好奇心とは、珍しいことや未知のことに気持ちがひかれることであり、物事を知りたいという基本的な願望・習慣である。逆境では何が起きているかをすばやく把握することが不可欠だ。予期せぬ事態や新たな状に遭遇した時、その実態をすばやく把握できれば、それだけ対処しやすくなる。反対に、それができなければ、対応はおぼつかず、時間とエネルギーを浪費してしまう。

好奇心を高めるためには、自分が同意しない事柄や新たな状況に問いを立てよう。「詳しく話してください。しっかり理解したいので」と質問することだ。そして、聞いたことを自分の言葉で繰り返し、自分の理解が正しいかどうか確認する。相手の話に耳を傾けるのは、人間関係を構築する基本である。この時、相手に同意したり反対したりする必要はない、相手のいうことを理解することと、それに同意することは別物だからである。

楽観主義とは、将来によい出来事や進展を期待することだ。この点、いわゆる「前向きの姿勢」(現在の出来事に望ましい見方・解釈をする)とは区別される。心の復元力が高い人は、よい結果を望み、将来によい出来事が起こると期待する。そして、健康なエネルギーや自らの動機づけ、問題解決のスキル、自信により、現状をすばやく把握し、有効な対応策を探すことができる。逆境では、「何としてでも乗り切り、うまくいかせる」と自分に言い聞かせる(セルフ・トーク)。スポーツでも、勝者は勝利を期待しているものである。

心の復元力には楽観主義が不可欠だ。楽観的な人は、期待と意欲が高く、逆境から立ち直り、以前よりよい状況をつくりだしやすい。「期待を抱くのは、今が幸せである証拠」(アラン)とか、「悲観主義は弱さを招き、楽観主義はパワーをもたらす」(W.ジェームズ)という言葉にも、楽観主義の特徴が示されている。期待が行動を促し、いわゆる「自己達成予言」となるからだ。悲観的な人は、期待が低いので、そもそもためすことをしない。楽観主義をとり、よい結果を期待すると、脳は小さな出来事も見逃さず、絶好のチャンスととらえ、それがやがてよい結果に結びつく。逆もまた真である。その意味で、すべての人が成功している。「あなたができると思っても、できると思わなくても、それは正しい」(R.パウシュ)という指摘の通りである。指揮者の小澤征爾さんがTVの談話でご自分の体験を紹介していた。「ヨーロッパのコンクール入賞した後も仕事がこないので、弱気になっていた。そんな時、ローマ・オリンピックがあり、作家・井上靖氏の通訳をした。その際、日本に帰ろうかと思っていると話した。すると、井上氏に『とんでもない、小説は外国人に理解してもらうのに翻訳がいる。だが、音楽は言葉も何も話さずに直に理解してもらえる。ヨーロッパで頑張れ』といわれた。『なるほど』と、ヨーロッパに留まることにして、少し強気になった。すると少しずつ仕事が入ってきた、人間って不思議だね。弱気でいると力が出ないけど、強気だと力が出る」(NHK総合TV、2010年9月)

(次回に続きます)