人芯経営論 ・・・論語とプロジェクト⑤

2013/04/16 浅見 淳一

論語は約 2500 年前の中国の書物ですから漢字で書かれています。ですから元の漢文は、句読点、返り点、読み仮名、送り仮名などはありません。これを白文と言います。それに日本人が読めるように加筆しています。ですから句読点や返り点をどこに振るか、漢字をどう読むかによって意味が異なります。訳者や学者によって違う解釈も存在しています。論語が 2500 年にもわたって残っているのは、その時代の価値観や訳す人の哲学で解釈ができ、いつの時代でも古臭いものにならないのも一つの理由だと考えています。
簡単な例では、「子曰」を「しのたまわく」「しいわく」と読みが違います。「孔子先生が仰いました」と「孔子が言いました」程度のニュアンスが違います。

今回は、「お前ごときが僭越だ」というもっともな非難を覚悟で、孔子様は弟子にこのようなことを伝えたったのではないかと想像しながら、私の解釈も書きます。

今月の論語
[漢文] 子曰、知之者不如好之者、好之者不如樂之者・・雍也第六の二十
[読み] 子曰(のたま)わく、これを知る者はこれを好む者に如(し)かず。これを好む者はこれを楽しむ者に如(し)かず。
[意訳] よく知る人も好む人には勝てない、好む人も楽しむ人には勝てない。
[浅見訳] よく知ることで好きになる。好きになれば楽しくなる
[ビジネス訳] はじめは興味のない仕事でも、その仕事の知識が増えることで、その仕事がだんだん好きになり、好きになってくればその仕事をすることがだんだん楽しくなります。
5 月号の雑誌「致知」のテーマは「知好楽」です。この章句を簡単にまとめた言葉です。「知ることで好きになる。好きになれば楽しくなる」の意訳の方がピンとくるのではないでしょうか?
[漢文] 子夏曰、商聞之矣、死生有命、富貴在天 ・・顔淵第十二の五
[読み] 子夏(しか)曰(いわく)、商(しょう)これを聞く、死生(しせい)命(めい)あり、富貴(ふうき)天に在り。
[意訳] 商(子夏の名)はこのように聞きました。人の死生は運命で有り、人の富貴は天命です (人の力 ではどうにもできない)
[浅見訳] 命も財産も(自分で得たものでなく)天から与えられたものです。(与えてもらったことに感謝する)
[ビジネス訳] 財産や地位は自分の力だけで得たと思いあがらない。周りに感謝して謙虚に誠実に仕事をすることです。
西郷隆盛は「人の生死を決める権利は天にあり」と言っています。「命を与えてもらったことに感謝し出来ることを私心なく行う」と考えています。江戸時代ですから論語は教養として学んでいます。

<余談>
今月はイベントの多い月でした。映画は「ジャーニー/ドント・ストップ・ビリーヴィン」美術展は「エル・グレコ展」 を「落語」にも行きました。それと一度聞いてみたかった、イエローハット創業者の鍵山さんの講演を友人と聞きに行きました。

全スタッフの T シャツに「凡事徹底」の文字がプリントされていました。鍵山さんの有名な言葉に「成功するコツは二つあります」→「コツコツ」があります。世の中のおやじギャグの中では、最上級のグレードだと思っています。

講演内容は掃除の効用や実施している内容を淡々と説明されていました。穏やかな人柄の印象を強く受けました。そのあと図書館で著書の「日々これ掃除」を借りました。平和な人生を過ごされてきた結果の人柄かと思っていましたが、本を読んでみて予想外でした。想像もできない辛酸を味わいそれに耐えています。またビジネス上の判断は、将来を見越して周り全てが反対しても実施する経営者としての決断力も飛び抜けています。

「トイレをきれいに掃除すれば、ビジネスも私生活もすべて上手くいく」と鍵山さんの理念はシンプルなメッセージで伝えられることが多いですが、なんとなく腑に落ちませんでした。本を読んでA(時代の変化を読む的確な経営判断、公私を混同しない倫理観、常人を超えた忍耐力)+B(トイレ掃除もこだわりなく行える人間性)が合わさってエクセレントな社風や業績につながっていると理解しました。B さえ行えば上手くいくと考えて活動している例を知っています。人づくりとしては素晴らしい活動ですが、B だけを実施すれば仕事も上手くいくと単純に考えることにはリスクを感じています。

講演で鍵山さんに穏やかな印象しか感じられなかったのは、人としての器が大きくて、私ごときには理解をできない存在だったからだと今では思っています。小説「のぼうの城」(衝撃的に面白かったです)の、のぼう様もそんな存在でした。できればもう一度じっくりお話をうかがいたいと思っています。