ほんとうにやるべきことは何か

2004/06/16 津曲 公二

少し古い話で恐縮だが、新春放映のテレビ番組で、ノーベル賞受賞者で現在はMITにおられる利根川進氏と作家の村上龍氏の対談があった。利根川氏のお子さんが現地の小学校に通学されていたときのこと、日本語を勉強するために週末は日本人学校に通学されていた。つまり同時に二つの学校に在籍されていたわけである。あるとき、二つの学校から作文の課題があった。課題を効率的にやるために、彼は、作文の内容は全く同じで一方は英語、もう一方は日本語で書いた。その作文のタイトルは「スキヤキ」。「ゆうべ私のうちで夕食にスキヤキを食べました。スキヤキは肉と野菜で作ります、…僕は肉をいっぱい食べました。
僕はスキヤキが大好きです」というような内容であったらしい。小学生の宿題だからそんなに複雑な内容ではない。後日、それぞれの先生のコメントつきで作文は戻ってきた。まず英語のほうの先生のコメント。「スキヤキ…、聞いたことはあるけど、先生はまだ食べたことはない。でもあなたの作文を読むととってもおいしそう。こんど会ったとき、作り方を教えて!」。次に日本語の先生のコメント。「…肉ばかりでなく野菜も食べましょう」。ここで、「僕は笑ってしまったんだけどね」と利根川氏。「栄養学の授業じゃないですよね」と村上氏。作文を書かせる意義は村上氏によれば、「ものを書くことに興味を持たせること」なのだそうである。内容や出来栄えはともかく、ものを書くことは面白いことだという体験をさせることがその狙いらしい。(英語のほうの先生は)「やり方がうまいんだね」というのが利根川氏の感想だが、作文の意義をみごとに把握して「もう一回書いてみようかな」という気を起こさせるやり方と、やるべきことがお留守になっているやり方の、見事なまでの落差に利根川氏は思わず「笑って」しまわれたのだろう。

プロジェクトの計画段階のプロセスのひとつにネットワーク作成がある。TOCによるプロジェクトマネジメント(TOC-PM)においては、ネットワーク作成は最終の成果物から遡っていく。その際、「必須のもの(Must Have)」と「無くてもよいもの(Nice to Have)」を因果関係からきちんと区別し、ネットワークのスリム化と重要作業のヌケモレ防止をはかる。しっかりしたネットワーク作成が無ければ、その後のスケジュール作成もリスクマネジメントも砂上の楼閣になる。「プロジェクトでほんとうにやるべきことは何か」を追究するのがTOC-PM によるネットワーク作成である。製品開発のプロジェクトなどで、もっと重視されてよいプロセスであると考えている。