「逆演算」、時間を遡って考える

2006/05/17 津曲 公二

プロジェクトの計画策定段階で、ネットワーク作成は必須の作業であり、関係者におけるプロジェクトの理解共有やタスクのヌケモレ防止に効果的と、本欄でも何回か述べてきた。ネットワークを作成せずにいきなりスケジュールを作成する(線表を引く)ことはきわめてリスクの大きいやり方である。経験の少ない、不確実性の高いプロジェクトにおいては、依存関係の構築・確認が欠かせないからである。相当の「達人」であっても、スケジュール表から、依存関係のヌケモレによるタスクの見落としを発見することは難しい。クリティカルチェーンPM(CCPM)では、ネットワーク作成を重視しておりここで手を抜かないことがプロジェクトの成功に大きく寄与する。そしてそのやり方は最終の成果物から遡ってどのようなタスクが必要かを考えていく。このやり方そのものは別にCCPM独自の発明ではない(我々は、独自にこういうやり方をされているところを現場で何回か拝見している)。しかし、CCPMのようにこれを計画策定の手順としてとくに重視・強調するやり方は今のところないようである。

「失敗学」を提唱された畑村洋太郎氏の近著を読むと、同じようなやり方が「逆演算の思考」として紹介されている(畑村式「わかる」技術、講談社現代新書、2005年)。ここで畑村氏は次のように書いておられる。…定められた定式やシナリオどおりにものを考えて解を出すのが「順演算」の思考。これとは正反対の思考パターンで、いまの事象や起こりうる事象から逆に原因や事象に至る脈絡を探っていく…。

この逆演算というやり方は、CCPMのネットワーク作成で、時間を遡って最終成果物からタスクを考えていくやり方と同様である。畑村氏は、順演算だけだとどうしても考えには抜けがある、逆演算を合わせることで考えの抜けを補う、とされている。プロジェクトの計画段階でも必須のやり方であるが、それに限らず、普遍的なやり方であることがわかる。